ドゥニーズのすぐ近くまで来てみると、都市が完全に着陸しているのではないことが分かった。地上すれすれに浮遊しており、入り口らしき部分から階段状のものが下へのびている。
だが、さすがにその部分が無防備であることはなかった。あの銀色の体を持つ番兵たちが、半円状の陣形をしいて、都市への入り口を守備していたのである。
「ざっと見ただけでも、百体以上はいるわね・・・。仕方ないわ。セイル、あなたは先に行きなさい。ここはわたしたちで引き受けるわ」
「なぁにぃぃぃぃぃっ!わたしも引き受けさせられるのかぁぁっ!?わ、わたしはちょっとぉ用が足したくなってきたので、これで失礼させてもら・・・」
「用を足す場所くらい都市の中にだってあるわよ。早いところこいつらをやっつけてしまえばいいことでしょう」
逃げようとするトネモの服を捕まえながら、シェナは事もなげに言った。その様子を見てセイルは迷いの表情を見せる。
「迷っている場合じゃないでしょう。あそこにはレイリーがいるのかも知れないのよ!」
シェナはセイルに言った。
「レイリーが・・・」
セイルは一瞬考えると、すぐに自分だけで都市に潜入することを決断した。
三人がそんなやりとりをしているうちに、敵兵がセイルたちに気づいて、戦闘体制を取り始める。
「よし、セイル、いくわよ!」
「はい!」
シェナは叫ぶと一瞬で作り出せる範囲で最大の光球を、敵兵の中心部へ向けて放った。連鎖的に爆発が生じ、都市入り口に向けて敵兵団に空隙ができる。シェナの合図で走りだしていたセイルはその道へ突っ込んでゆく。ローウェンがマシンウォーリアーと呼ぶその兵士たちは、それに反応するのが間に合わなかった。何体かの狙いがセイルに向けられたときにはすでに、彼は階段を駆け上がっていたのである。
「行きなさい、セイル。あなたを信じてくれた人のために・・・」
シェナはそう独り言を言うと、トネモにこう告げた。
「トネモ、わたしが攻撃をするから、あなたは防御をお願いね。大丈夫、都市の復活であなたの能力もかなり高くなっているはずよ」
「それは敵も同じなんじゃあないのかぁぁ?」
「たぶんそうだと思うけど・・・」
「・・・」
二人が会話しているところに敵兵の火球が数発撃ち込まれてきた。シェナが防衛措置を講じてそれを防ぐ。どんな状態でも戦闘の心構えをしている彼女だからこそ可能なことである。
「意外に攻撃力が低い・・・?どうやらあいつらはリリーサーと仕組みが違うようね。ドゥニーズ始動前と変わらないわ」
「だったら、わたしでも何とかなるということかぁぁぁぁ!」
トネモは急に元気になると、防壁を築きだした。
「ちょっと待ちなさいよ。敵の攻撃のときだけ防御すればいいでしょう。これじゃあ、わたしが攻撃できないじゃない!」
シェナにとがめられてトネモはとりあえず防御を解除する。防壁が消失したのを確認すると、シェナは銀の兵士へ向けて光弾を撃つ。完全な状態のリリーサーによって作り出された光は、赤い輝きを一帯に放って爆発した。光の消えたあとには敵兵の残骸が散らばっている。この一撃だけで十体以上の番兵を倒したはずだった。だが、生じた空隙を埋めるようにすぐさま陣形を再編されてしまったのである。しかも敵の数は見た目にまったく減っていない。
「まったくきりがないわね。とにかく次々にやっつけるわよ」
それから、シェナとトネモは見事とは言い難いコンビネーションではあったものの、協力して敵兵と戦っていくのだった。
セイルは敵兵の攻撃を受けることなく都市に侵入することに成功した。しばらくは一本道が続いている。セイルはレイリーの姿を求めて走り続けた。
突如、彼の前に分岐点が現れた。そしてその一方に銀色の生物が立ちふさがっている。だが、一体だけのマシンウォーリアーなど、リリーサーの力を使いこなせるようになったセイルの敵ではなかった。
番兵を破壊すると、彼は迷わずにその兵士が守っていた側の通路を選んだ。
それから先も数々の分岐点が存在したが、そこには必ずどちらか一方を守護する敵兵がいるのだった。セイルは常にそちらの側を選んで進んでいく。そんな単純な方法で敵がいる場所へ、あるいはレイリーの元へたどり着けるかどうかは不安であったが、今の彼に迷っている猶予はなかった。
セイルが何体目かの兵士を倒し、そちらの進路を進み始めたときである。少年のうしろで、ガシャッ、という音がした。彼はすぐにふりむいて、それが敵兵であることを確認すると、すばやく火球を放つ。だが、そのときにはすでに、銀の兵士が光弾を撃ったあとだったである。
二つの光球が互いにすれすれの位置で干渉を起こし、赤い光が飛び散る。しかし、それらが本来の軌道をそれることはなかった。二つの光球はそれぞれの目標に向かって直進する。セイルにはそれを防御する余裕はなかった。
少年の視界をまばゆい光が包み込み、彼は気を失ってしまったのである。
セイルが目を覚ますと、頭部を破壊され機能を停止した銀の兵士の姿が目に入った。どうやら、あれは夢ではなかったらしい。そして、まわりには粉々に砕けた彼のリリーサーが散らばっている。
セイルは恐る恐る立ち上がると、自分の体を調べてみた。まったくと言っていいほど外傷はない。
「僕は確か、直撃を受けたはずじゃ・・・」
セイルがふと足元を見下ろすと、腰に下げていたはずの袋が床に転がっており、その中から赤い光があたりにもれていた。
「光・・・?まさか・・・」
案の定、光の正体はマラナのリリーサーであった。セイルが皮袋から取り出すと、リリーサーはやわらかい光で一帯を包み込む。
「そうか・・・。マラナ、君が守ってくれたんだね・・・」
セイルはリリーサーを抱きしめて、声を出さずに泣いた。
すると、あたりを照らしていたリリーサーの光はしだいに収束してゆき、最後には一本の光線となってしまった。光は都市のさらに奥を指しているようである。
「ありがとう、マラナ。僕を導いてくれるんだね・・・」
セイルはそうつぶやくと、涙を拭き、光の指す方向へ向けて走りだした。