遺跡へと至る道を歩いてくる二つの人影があった。スィーザーとレイリーである。セイルたちとは異なり、スィーザーは道を完全に把握していたので最短の道を通ってきており、遺跡の正面に出てきていた。
「遺跡が見えてきましたね。レイリー、ここからは急がなくていいですよ。わたしが先に行って様子を見てきますから」
「はい、分かりました」
スィーザーはレイリーの返事を聞くと、一度うなずいてから遺跡の方へ駆け出していった。彼のこうした言動をレイリーは怪しいと思うべきだったのかもしれない。だが、兄のことで頭が一杯だった彼女は、彼が親切でそうしているのだとばかり思っていた。
遺跡につき、その様子を確認したスィーザーは小声でつぶやいた。
「ほう、もう始まっていたのか。だが・・・」
そして、彼は後ろをふりむきレイリーが声の届くくらいの距離まで来ているのを確認すると、こう言葉を続けた。
「あの娘にとっては、ここからで十分かもしれないな」
スィーザーはすでにセイルやカイゼルのいる建物の入り口の所に立っていた。中を見ると3人の人間が戦っている。彼はセイルとシェナの姿を街で確認していたので知っていた。レイリーから聞いた話を考えると、もう一人の人間がカイゼルらしい。
「カイゼルは本気で攻撃しているように見えるが、あの二人は逃げる隙をうかがっているようだな」
スィーザーは後ろを向いてレイリーに叫んで見せた。
「レイリーさん、急いで来て下さい!あなたのお兄さんらしき人が戦っています!」
レイリーはあわててスィーザーの元へ走ってくる。彼は遺跡の中の状態を見せ、少女に意見を求めた。
「兄さん・・・。それにセイル。行ってとめなきゃ!」
「お待ちなさい。こんな状態で出ていくのは危険です。どんな理由で戦っているのかも分からないのですよ」
スィーザーはさりげなくレイリーの反論を待つ。
「理由って・・・、それはたぶん兄さんが・・・」
「本当にそうでしょうか?」
「え・・・、どういう意味ですか?」
スィーザーは遺跡の中へと視線を移し、自分の計画をより完璧なものとするための言葉をレイリーに聞かせる。
「彼は・・・、セイル君は何を考えているのでしょうね。あなたの話ではマラナさんが亡くなった時に、彼は涙のひとつも見せなかったとか。本当に大事に想っていた相手を失った人間が、そんな態度を取ることができるでしょうか。そして、そのあとのあなたに対する言葉・・・」
「・・・」
「わたしは思うのですが、もしドゥニーズの力を悪用しようとしている人間がいるとすれば、恐らくリリーサーにかかわる者を消していこうとするでしょうね」
「セイルが、彼がそうだと言うの!」
レイリーはそのあと、反論しようとして言葉につまってしまった。
確かにマラナの死がセイルに深く関係しているのは事実なのだ。あれが故意であり、マラナが自分をかばうことまで計算に入れていたのだとすれば、なんと悪質なやり口だろう。
そして、セイルのあの言葉。スィーザーと出会わず一人っきりだったなら、きっと自分は兄を探すのも、古代帝国にかかわるのもやめようとしただろう。それも計算されていたことなのだろうか?
しかも今、彼はリリーサーを持つ二人の人間を巻き込んで戦っている。もし、これも計画の一環なのだとしたら・・・。
「そんな・・・、そんなはずない・・・」
レイリーはそれしか言うことができなかった。